ダルマさんのはなし 第34号
 ダルマ(五三〇年没?)さんは、お釈迦さまの正しい法(真理・おしえ)をはじめてインドから中国へもたらした高僧です。
 そのころ、梁の国に武帝(ぶてい・464〜549)という皇帝がいました。
武帝は、たいそう仏教信仰の厚い人でした。経典を研究したり、立派なお寺を建てたり、多くのお坊さんたちに、お袈裟や法衣などを供養したりしていました。しまいには、娘までダルマさんのお弟子として尼僧にしたのでした。
 ですから、武帝は、いささか自慢げにおもったことでしょうし、まわりの人たちも、武帝さまはたいしたものだ、たくさんの功徳をつんで、きっと極楽浄土に大往生されるのはまちがいないとほめたたえたのでした。
 そこで、武帝はダルマさんにたずねます。
「私が仏教に対して行ってきたことは、どんな功徳があるのか」と。
これに対して、ダルマさんは、ひとこと答えます。
「無功徳(むくどく)」(功徳なし!)と。
また、武帝はこんな質問をします。
「仏教のいちばん大切なおしえはなにか」
すると、ダルマさんは答えます。
「大切なこととか、なんとか、そんなものはなにもありはしない。カラリと晴れわたった大空のように何もないのだ」
「では、朕(ちん・私)の前にいる者は、誰だ」
「不識(ふしき・知らない)!」
こんな問答がつたわっています。
 ダルマさんの答えと態度には、仏法、禅の特色がよくあらわれているのですが、とうてい武帝には理解されません。こんなぶっきらぼうな、人を食ったような姿勢は、誤解を生みやすく、必ずしも親切な答えではないのかも知れません。
 しかし、ほんとうのやさしさ、ほんとうの親切というのは、存外こういうところに秘められているのではないでしょうか。
 それはそれとして、いったいダルマさんの真意はどこにあるのか、ダルマさんはなにを示そうとしているのか、ぜひ、みなさんもお考えになってみてはいかがでしょう。




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